こんにちは。大阪府の寝屋川市で不動産オーナーを支援している税理士の平川(@asse_t_ax)です。
不動産オーナーの中には、個人の所得が高くなり、累進課税による高額な所得税に頭を悩ませている方も多いかと思います。
「累進課税」の制度の下では、所得が上がるにつれ、適用される税率も高くなっていきます。
一方、法人税はというと、安倍総理が「数年で法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指す」ことを公約として掲げており、現在約30%ほどの実行税率は今後さらに下がることが予想されます。
そこで、個人から法人へ所有物件を売却することにより、個人と法人の「税率のズレ」を利用した節税が考えられます。
☞不動産管理会社を利用した節税についてはこちらの記事をご参考ください
また、不動産にまつわる税金として、「消費税」を無視することはできません。
今回は、所有物件を法人へ売却することにより、「消費税の還付」を受けることができるのか、ということについて、解説していきます。
消費税の還付を受けることはできるのか
個人から法人へ不動産を譲渡することにより、消費税還付を受けることができるのか。
先に結論からお伝えしますと、可能になります。
しかし、「平成28年税制改正」により、消費税の還付を全額受けることは、非常に困難となりました。
具体例で確認してみましょう。
※今回は譲渡・取得にかかる諸費用などは考慮していません。
※A社の売上は居住用マンションの家賃収入を100%とします
前提として、法人が消費税の還付を受けるためには、売買日の属する事業年度の前事業年度までに「消費税課税事業者選択届出書」を提出することなどにより「消費税の課税事業者」となっておくことが必要になります。
法人への譲渡では、個人で譲渡所得を発生させないよう「売却時の簿価」で売却金額を設定します。
法人側では、建物の取得価額が1億8百万円であり、その内の消費税8百万円について、還付を受けることができそうですが、消費税の計算の仕組み上、このままでは還付をうけることができません。
消費税の計算は、「支払った消費税」のうち、「課税売上に係る消費税」に直接対応するものしか控除できないという大原則があります。
例外として、「支払った消費税を課税売上割合で按分する方法(一括比例配分方式)」が認められており、消費税還付を受ける場合は、この方法を利用します。
📝【課税売上割合】
全体の売上のうち、消費税が課税されている売上の割合
上記の事例では、居住用マンションを売買していますので、当物件から発生する売上は、「入居者からの家賃収入」となります。
入居者からの家賃収入には、消費税が課税されておらず、A社の収入は「非課税売上」のみとなり、マンション購入に係る消費税のうち、課税売上に対応するものがないため、このままでは、消費税の還付を受けることができません。
そこで、 消費税還付を受けるには、課税売上をA社で意図的に発生させてあげる必要があります。
具体的な課税売上の発生方法については、下記の記事で解説しています。
☞課税売上を意図的に発生させる方法
しかし、上記の方法により、消費税の還付を受けた後も、気を付けなければならないことがあります。
それが、「28年税制改正」になります。
以下で、改正の内容を見ていきましょう。
高額な不動産を購入(建設)した場合の消費税の特例
消費税の還付をめぐる制度改正については、税務署と納税者とのいたちごっこが長年にわたり続いているのですが、H28の税制改正により、消費税還付にさらに網が張られることとなりました。
その改正の内容は下記の通りです。
事業者が「事業者免税点制度」及び「簡易課税制度」の適用を受けない課税期間中に「高額特定資産(※)の仕入れ等」を行った場合には、「当該高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間」から、「当該高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間」までの各課税期間においては、事業者免税点制度及び簡易課税制度を適用しないこととされました。
※ 「高額特定資産」とは、一の取引の単位につき、課税仕入れに係る支払対価の額(税抜)が 1,000 万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産をいいます。
上記の改正により、平成28年4月1日以後、1000万円以上の不動産を購入・建設した場合、「取得事業年度開始の日から3年を経過する日の属する事業年度」までは免税事業者になれず、簡易課税制度の選択もできないこととなりました。
28年改正前であっても、法人が自ら消費税の課税事業者を選択していた場合(課税事業者の選択届出書を提出している場合)には、その後2年間は簡易課税や免税事業者に戻れないという規定がありました。
しかし、今回の改正では、法人が自らの意思で消費税の課税事業者を選択していない場合、つまり、2期前の課税売上が1000万円を超えて、「自然と課税事業者になったケース」でも、高額な資産を取得して、消費税の還付を受けたんなら制限かけますね。
ということになります。
とはいえ、先にもいいましたが、消費税の還付については、以前よりもハードルがあがったのは事実にしろ、当局と納税者のいたちごっこという状況には変わりはなく、消費税還付後も力技で課税売上をあげる方法などにより、消費税の還付が完全に封じ込められたわけではありません。
まとめ
平成28年の税制改正により、消費税の還付は、いっそう複雑になり、納税者が行わなければならない手続きも増えています。
また、消費税の還付を受けるためには、事前のスケジュールや段取りが非常に重要になりますので、不動産購入・建築の前に必ず消費税の還付に詳しい税理士や不動産会社などへ相談するようにしましょう。
弊所は、消費税の還付実績(総額2億円以上の還付実績)やノウハウが豊富にありますので、検討中のかたは一度弊所までご相談ください。