こんにちは。大阪府の寝屋川市・枚方市を中心に不動産オーナーを支援している税理士の平川(@asse_t_ax)です。
不動産投資をやっていると、物件の入れ替え時期がかならずやってきます。
個人で賃貸物件を売却し、売却益が出た場合には「譲渡所得」の計算が必要になります。
自分で申告書の作成・提出までやっている大家さんでも、「譲渡所得」の申告は計算が結構むずかしいもの。
弊所でも、確定申告時期になると「譲渡所得」の計算が自分では不安になり、スポットで申告書作成の依頼がきたりします。
賃貸物件を売却した年の「減価償却費」の扱いによって、税額が大きくかわることもあるので、その計算には注意が必要です。
そこで、今回は譲渡所得の計算において「減価償却費」が「取得費」にあたえる影響について解説していきます。
「取得費」とは
「取得費」を簡単にいうと、「物件の購入費用」のこと。
購入費用には、建物や土地の購入価格だけではなく、「購入にかかった諸経費」を含みます。
「諸経費」には、下記のものが考えられます。
📝【諸経費に該当するもの】
- 仲介手数料
- 立退料
- 土地の造成費
- 測量費
- 物件の使用開始までにかかる借入金利子
その他の諸経費については、国税庁のタックスアンサー(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3252.htm)にて列挙されていますので、ご参考ください。
また、「建物の購入費用」からは、購入時から売却時までの「減価償却費」を控除する必要があります。
ここで、「年の途中で建物を売却した場合」には、注意が必要です。
「売却年度の減価償却費の取扱い」によって税額が大きく変わる可能性が。。
【原則】売却年度のはじめから売却日までの減価償却費を計上しない。
まずは、「原則的」な取扱いについて。
年の途中で売却した場合、売却年度の減価償却費は計上しません。
根拠条文は、『所得税法49条1項』になります。
📝【参考条文】
『所得税法49条1項』
居住者のその年12月31日において有する減価償却資産につきその償却費として第37条の規定によりその者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする。
簡潔にいうと、「12月31日時点で保有する建物については、減価償却費を計上してね。」ということです。
反対に、12月31日時点で保有していない建物については減価償却費を計上できないと解釈することができるのです。
【例外】売却年度のはじめから売却日までの減価償却費を計上できる
例外的な取扱いは、『所得税基本通達49-54』にて明示されています。
📝【参考通達】
所得税基本通達49-54(年の中途で譲渡した減価償却資産の償却費の計算)
年の中途において、一の減価償却資産について譲渡があった場合におけるその年の当該減価償却資産の償却費の額については、当該譲渡の時における償却費の額を譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に含めないで、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入しても差し支えないものとする。
年の途中で資産の売却があった場合には、「12月31日まで建物を保有してなくても、減価償却費を計上していいよ」といった例外的な取扱いを定めています。
所得税法では、減価償却は「強制償却」であることは、知られたところ。
通常は、減価償却をするかどうかを納税者が選択することはできないのですが、「売却した固定資産」については、例外的に認められているのです。
節税になるケースとは
賃貸建物の売却があった場合には、「減価償却費を計上するかどうか」を、納税者は有利選択する必要があります。
いくつかのケースで考えてみましょう。
計算をシンプルにするため、納税者の本業は、不動産所得のみとします。
1.不動産所得が赤字の場合
不動産所得が赤字なので、売却年度の減価償却費を計上する必要はありません。
減価償却費を計上しなければ、その金額相当の売却建物の取得費が増えるので、譲渡所得を抑えることができます。
なお、不動産所得のほかに給与などの所得がある場合は例外。
不動産所得の赤字は給与所得と相殺し、税金の還付を受けることができます。
減価償却費を計上するべきかどうかは、納税者ごとにシミュレーションが必要になります。
2.譲渡所得が発生しない場合
売却金額よりも取得費と譲渡費用の金額のほうが大きい場合には譲渡所得が発生しません。
そのような場合には、かならず売却年度の減価償却費を計上しましょう。
たとえ、「不動産所得が赤字」であってもです。
「青色申告」であれば、赤字を3年間繰り越すことができるので。
3.不動産所得が黒字・譲渡所得が発生する場合
このケースは、納税者ごとに本業と譲渡所得の税率(所得税+住民税)を比較検討する必要があります。
譲渡所得は、「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」で税率が異なります。
不動産所得は、「総合課税制度」が採用されています。
そのため、下記の表のとおり、所得金額におうじて税率が階段状に高くなっています。
所得税の速算表課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
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1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
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1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
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3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
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6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
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9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
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18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
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40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
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住民税については、全国一律10%。下記の税率に10%を加算してもらえれば。
つまり、
- 「不動産所得の税率」>「譲渡所得の税率」 減価償却費を計上
- 「不動産所得の税率」<「譲渡所得の税率」 減価償却費を計上しない
ということになります。
まとめ
年の途中で賃貸物件の売却があった場合には、個人であっても、売却建物について、売却年度の減価償却費の計上は任意選択になっています。
選択を間違えると、税金の負担に大きな違いが発生してしまうことも。
結果的に「専門家に依頼したほうが安かった」なんてこともありますので、賃貸物件の譲渡がある場合には、できる限り早めに専門家に相談することをオススメします。