こんにちは。大阪府の寝屋川市・枚方市を中心に不動産オーナーを支援している税理士の平川(@asse_t_ax)です。
不動産を所有していると、外壁や屋上の定期的な修繕が必要になります。
外壁は最も紫外線の影響を受けるところでもあるので、放っておくと木材やコンクリートに小さな穴があき、クラックが発生。その結果、雨漏りなどの要因に。
不動産投資家としては、建物の定期的なメンテナンスにより、建物の構造が腐食することを防ぎ、できる限り長く物件を維持していきたいところ。
外壁工事は金額が大きいので、一括で経費にすることは難しいでしょうか?
大家さんA
基本的には、一括で経費に計上することができます。ですが、修繕工法や塗料の種類には注意が必要です。
ひらかわ
外壁や屋上などの工事は、10年~15年周期で実施することになりますが、足場を組む必要があり、施工面積も広いため高額になりがちです。
そのため、一括で経費に計上できないと勘違いしている不動産オーナーも多いのではないでしょうか。
修繕費か資産計上かの判断基準
判断基準については、他の記事において詳しく解説していますので、下記の記事をご参照ください。
簡単にいうと、その工事が建物の価値を高める(耐用年数を延ばす)ものであれば「資産計上」、単なる原状回復の工事であれば「修繕費」として一括で経費に落とすことができます。
以上をふまえた上で、外壁工事について個別に考察していきましょう。
ひらかわ
外壁工事について
クラックの入った外壁
外壁が劣化する原因としては、時の経過による材質の劣化(経年劣化)だけでなく、酸性雨や紫外線などの外的要因も大きく影響します。
外壁が劣化してくると、亀裂が入ったり、シーリングにひびが。。。
このような、クラックの補修や外壁の塗り替えの工事は基本的には金額の大小にかかわらず一括で経費として計上することが可能です。
外壁工事を一括で経費に落とすための根拠条文について
根拠法令等は、現時点では明文化されていないのですが、『旧法人税基本通達235』にて以前は下記のように明示されていました。
旧法人税基本通達235
次に掲げるようなことのために支出した金額は、令第132条の規定を適用して資本的支出と修繕費の区分計算をしないで、その全額を修繕費と認めるものとする。
ただし、自己の使用に供する等のため他から購入した固定資産について支出した金額又は現に使用していなかった資産について新たに使用するために支出した金額は、修繕費としない。
(1)家屋又は壁の塗替
(2)家屋の床のき損部分の取替
(3)家屋の畳の表替
(4)き損した瓦の取替
(5)き損したガラスの取替又は障子、襖の張替
(6)ベルトの取替
(7)自動車のタイヤの取替
この通達は、現在では廃止(昭和44年)。
廃止された理由としては、「法令を解釈するうえで、上記の取り扱いに疑いの余地はなく、わざわざ通達として明示しなくても分かるでしょ」とのこと。
そのため、上記の取り扱いに変更はないと考えられます。
資産計上しなければならないケース
外壁工事で、修繕費として一括で経費にできないケースとしては、下記の工事が考えられます。
ひらかわ
- 外壁重ね張り(カバー)工法
- 異なる種類の外壁材を使用(モルタルからサイディングへの張替など)
- 以前よりもグレードの高い塗料の使用(シリコン塗料から無機塗料への塗替えなど)
外壁の重ね張りや異なる外壁材を使用した場合には、明らかに建物の耐用年数が延びることが想像できます。
塗料の種類などは、素人には判断が難しいですが、種類によって10年以上耐用年数が変わることも。
施工前にどんな塗料を使用するのか、施工会社に必ず確認しておきましょう。
参考裁判例(H1年10月6日裁決)
本裁決は、資本的支出と修繕費の区分は、支出金額の多寡によるのではなく、その実質によつて判定するものと解される。
本件建物の外壁等の補修工事のうち、外壁等への樹脂の注入工事等は建物全体にされたものではない。
また、塗装工事等は建物の通常の維持又は管理に必要な修繕そのものか、その範囲であるから、これらに要した費用は修繕費とするのが相当である。とされた事例。
📝【内容】
- 本件の外壁工事は、アパートの外壁及び屋上の表面がはく離。その破損部分を取り替えるとともに、はく離しそうな部分に接着剤を注入するなどした補修工事。
- 外壁の美装工事には、普通の塗装材に比べ上質のものを使用。材質的には弾性のあるものであり、防水性も高いものである。
- 「工事施工会社」によると、このような塗装材を使用したのは、壁面にクラックが生じ、壁面のはく離が進行。普通の塗装材を用いた場合には、はく離の進行は止まらない。
- 特別に高い材料を使用したということではなく、建物の最初の塗り替え塗装のときは、モルタル自身が風化しているので、弾性系の塗料を使用するのが普通。
- 「請求人」は、本件補修工事等は建物を改造ないしは改装したものではなく、アパートに価値の増加や耐用年数の延長をもたらしたものでもないと主張。
- 「処分庁」は、本件補修工事等は、アパートの屋上及び外壁の一部のはく離した部分の補修ばかりでなく、アパート全体について溶液を注入し、これを強固なものとしていると指摘。
- 「処分庁」は、本件補修工事等には、アパート全体について取得時には行われていなかつた防水塗装工事が含まれていること。などから資産計上(70%部分)すべきと主張。
- 「審判所」は、注入工事及び壁はつり補修工事はアパート全体にされたものではなく、サツシ廻りシーリング工事及び塗装工事は建物の通常の維持管理に必要な修繕そのものか、その範囲のものであるから、これらに要した費用は修繕費とするのが相当であると判断した。
本裁決から、周期的に行われる大規模修繕の金額は、金額の大小にかかわらず、基本的に修繕費として一括で経費に計上できることが判断できます。
実務的には、非常に参考になる裁決例となっていますね。
ひらかわ
本件で、一番ポイントとなるのは、建築当初よりもグレードの高い塗料を使用している点。
そして、グレードの高い塗料を使用したからといって、一概に資産計上する必要はないよ。ということです。
グレードの高い塗料を使用したことに、合理的な理由があれば一括で経費に計上することも可。
今回の件でいえば、アパートの壁面に亀裂が生じており、はく離がだいぶ進行しているので、当初の塗料では、その進行をストップできず、より上質な塗料を使用したことにやむを得ない事情があると考えられます。
以上のことから、通常10年~15年周期で行われる外壁や屋上防水などの大規模修繕工事は、基本的に一括で経費に計上しても問題はないかと。
まとめ
大規模修繕で行われる外壁補修工事は、基本的に一括で経費に計上することが可能。
屋上防水工事なども同様の考え方になります。
特殊な工法や、必要以上にグレードの高い塗料を使用し、建物の耐用年数を延長するような場合は、資産計上の必要性がありますが。。
本記事の裁決事例は、実務上非常に参考になりますので、概要だけでも確認してみてください。