こんにちは。大阪府の寝屋川市で不動産オーナーを支援している税理士の平川(@asse_t_ax)です。
不動産投資を始めたばかりのころは、大きな融資を銀行から受けることが難しく、区分所有や中古戸建、アパマン経営など小規模からスタートする人が多いのではないでしょうか。
不動産投資で大事なことは、小規模ながらも不動産賃貸業による実績をコツコツと積み上げていくことにより、金融機関との信頼を築き、規模を拡大させていくこと。
そんな「初心者大家さん」さんが、最初に目指すべきところは、税務的メリットの多い「事業的規模」での運用になります。
今回は、事業的規模の「定義」と「メリット」について、解説したいと思います。
ひらかわ
事業的規模とは
「事業的規模」とは、簡単にいうと、不動産所得によって生計をたて、通常の生活を維持している状態のこと。
他に給与所得があって、不動産所得がわずかしかないのであれば、不動産所得により生計を立てている状態にはないと考えられます。
では、どれくらいの規模から「事業的規模」といえるのか。
事業的規模かどうかを判断する方法として
という、2通りの方法があります。
ひらかわ
実質基準とは
「実質基準」とは、社会通念上事業といえる程度の規模でおこなわれているかどうかによって判定する基準。
つまり、「常識的に考えて、これだけの不動産収入があれば、事業として行っているといっていいよね」という、納税者からすると一番困るあいまいな基準になります。
例えば、都心の一等地などで、ものすごく広い部屋を2室保有。
その部屋を1室あたり50万円/月で貸してるようなケースであれば、年間の家賃収入は2室で1,200万円/年。
このケースでは、実質的に事業的規模で不動産賃貸業を営んでいるといえるのではないでしょうか。
ですが、このようなケースは少なく、実務的に実質基準で判断できることはほとんどありません。
税務では、社会通念上という概念がよくでてきます。
いわゆる「常識で考えて」ということですが、人によってその程度は異なり、揉める原因となります。
ひらかわ
形式基準とは
「実質基準」では、判断できないケースが多いため、実務的には、「形式基準」により判断することに。
「形式基準」は、貸家やマンションなどの建物が5棟。または、アパート等の部屋室が10室あるかどうかにより判定する基準になります。
形式基準は、通称、「5棟10室基準」とよばれます。
ひらかわ
【注意】
- 貸地や駐車場の貸付けについては、5契約(台)で1室として判断。
- 貸家などの独立家屋を部屋室に換算する場合は、1棟あたり2室として計算。
しかし、この形式基準もおおむね5棟10室かどうかで判断するとされており、その解釈に曖昧さを残しています。
つまり、5棟10室の基準を満たしていなくても、事業的規模の要件満たす可能性がありますので、判断に迷ったときは税理士や税務署に相談するようにしましょう。
事業的規模のメリット
初心者大家さんが事業的規模を目指すべき理由としては、それにより、税法上さまざまな特典を受けることができるためです。
①青色申告特別控除を受けられる
青色申告の承認申請書 を管轄の税務署へ提出することにより青色申告の65万控除を受けることはできます。
事業的規模に満たない場合は、控除額の金額が「10万円」に。
事業的規模かどうかで、不動産所得から控除できる金額に55万円も差額が生じます。
【注意】
65万円控除を受けるには、確定申告のときに、「損益計算書」と「貸借対照表」を提出する必要があります。
②家族に給料が支払える
不動産賃貸業を事業的規模でおこなうことにより、不動産オーナーの配偶者や子供(15歳以上)などの家族に給料を支払うことができます。
青色事業専従者給与を支払う場合には、青色事業専従者給与に関する届出書を所定の時期までに提出する必要があります。
【注意】
専従者給与の支払を受ける人は、控除対象配偶者や扶養親族になれません。支給前によく確認するようにしましょう。
③資産損失を経費にできる
賃貸用不動産を取壊したり、除却した場合、そのことから「発生した損失(資産損失)」については、全額を経費にすることができます。
不動産の取壊しや除却をした場合には、多額の損失が発生するため、その年の不動産所得は、赤字の可能性が高くなります。
そういった場合には、その発生した赤字を3年間繰り越すことができます。
一方、「事業的規模でない場合」は、その年の「資産損失を差引く前の不動産所得の金額」までしか経費に計上できません。
④貸倒損失の計上
家賃の滞納などがあり、回収不能となった場合。
回収不能となった家賃を、「貸倒損失」として不動産所得の経費に計上することができます。
一方、事業的規模に満たない場合。
回収不能分について、収入計上年度までさかのぼり、収入がなかったものとして修正しなければなりません。
修正方法は、「更正の請求」により行うことになります。
ですが、「更正の請求」は、手間がかかるうえに、調査を呼び込む一因にも。。。
(例外)不動産所得のほかに事業所得がある場合について
「事業的規模の判定」の例外をご紹介したいと思います。
不動産所得のほかに事業所得があるケース。
事業所得のほうで青色申告の届出を提出しており、「65万控除」の適用を受けている場合には、不動産所得で事業的規模の基準を満たしていなくても「65万円控除」の適用を受けることができるのです。
この場合に、「65万控除を適用する順番」は、
①不動産所得
②事業所得
となります。
不動産所得から控除しきれない金額がある場合に、事業所得から控除することになります。
まとめ
初心者大家さんは、まず「事業的規模」を目指し、青色申告の特典である「65万控除」の適用を受けましょう。
ひらかわ
「事業的規模」かどうかは、通常「5棟10室基準」といわれる形式基準で判断することができます。
※令和2年4月8日追記
最近は、サラリーマン大家さんへの融資などが厳しくなってきています。
はじめから法人をつくり規模拡大を目指すなど、ご自身の目的に合わせた戦略を検討しましょう。