こんにちは。大阪府の寝屋川市・枚方市を中心に不動産オーナーを支援している税理士の平川(@asse_t_ax)です。
中古マンションや土地付き中古戸建などを購入した場合、建物と土地の「取得価額の計算方法」に悩むケースがあります。
不動産オーナー側からすると、建物の取得価額を多めにとり、減価償却費を少しでも多く計上したいところ。
今回は、土地と建物を一括購入した場合の、「取得価額の合理的な計算方法」について、過去の判例も参考にしながら解説していきたいと思います。
契約金額に土地と建物の内訳が記載されている場合
契約書に、土地〇〇円、建物〇〇円と分けて記載されている場合には、契約書に記載されている金額のとおりに取得価額を計上します。
土地1000万円、建物9000万円といったように、時価と著しく乖離した金額であれば別ですが。。。
売買代金総額のみの記載。消費税額は明記されている場合
土地と建物のうち、土地部分には消費税が課されていません。
そのため、契約書に消費税が明記されているのであれば、消費税額を税率で割り戻すことにより、建物の金額を確定できます。
たとえば、下記のようなケース。
売買代金の総額 1億円
うち消費税額(10%) 400万円
建物の取得価額:400万円 ÷ 10% = 4000万円(税抜)
→4400万円(税込)
土地の取得価額:1億円 - 4400万円 = 5600万円
売買代金総額のみが記載されている場合
ここからが本題です。
上記2つのケースは、契約時点で建物と土地の取得価額が確定しており、税務当局とその金額の正当性をめぐって、争いは発生しません。
問題は、契約書に「売買代金の総額のみ」が記載されている場合。
この場合には、取得者側で土地と建物の取得価額を計算しなければなりません。
具体的な計算方法をみていきましょう。
優先順位の高いものが視覚的にわかりやすいよう、優先度を★の数(最大3つ)であらわしています。
(1)当該物件の過去の売買において区分されていた土地及び建物の価額による按分(★☆☆)
この方法は、
- 取得する物件が過去に売買された経歴があること。
- その売買時において建物と土地の価額が区分されていること。
のような場合に、考えられる方法です。
この方法は、適用できるケースがかなり限定されていることや、過去の売買時点から取得日までの建物の損耗や実勢価額等との調整が必要であり、技術的に困難であることから、実務的にはほとんど使われていません。
(2)類似物件の売買実例価額による按分(★☆☆)
この方法も、実務上はあまり利用されていない方法ではありますが、最近はインターネットを通じて、無料で売買実例価額を調べることもできるので、検討の余地はあります。
国土交通省の土地総合情報システムでは、無料で、実際の取引価格の事例をみることができます。
(3)鑑定評価による方法(★★☆)
不動産鑑定士に依頼し、「鑑定評価」により取得価額を決定します。
デメリットとして、不動産鑑定士への鑑定費用がかかってしまいます。
鑑定評価は、対外的に「金額の根拠を示す方法」としては、とても効果がありますが、鑑定費用が高額かつ時間を要するという点で、優先度としては星2つに。
金銭的余裕がある方には有効な方法といえるでしょう。
なお、鑑定評価が一番効果を発揮するのは、土地建物の「内訳金額の算定」ではなく、「売買代金の総額をいくらにしたらよいか」といったケース。
親族間の売買で、時価が高額なケースなどでは、その時価の算定に恣意性が算入する恐れがあります。
そこで、客観的な目として一番有効なのが鑑定評価になります。
(4)売主の帳簿価額による区分(★☆☆)
売主と買主の販売価額と取得価額を合わせる方法。
この方法は、(1)や(2)のように価格補正の必要がないことや、売主の利益や販売手数料などの諸経費が反映されており、合理性の高い方法といえます。
ただ、売主の帳簿を許可なく第三者が見ることはできず、販売価額の区分を教えてもらえないことも多いので、あまり利用されていないのが現状です。
販売価額の内訳を教えてもらえるような状況はレアケースであるので、優先度としては星1つに。
(5)固定資産税評価額による按分(★★★)
ここでようやく星3つの登場。
「固定資産税評価額」は、簡単に入手でき、かつ、客観的な価額であるため、実務でも最も利用されている取得価額の計算方法です。
毎年6月ころに不動産の所在する市町村から所有者へ「固定資産税の決定通知書」が送られてきます。
「固定資産税の決定通知書」には、物件ごとの固定資産税評価額が記載されていますので、そこで簡単に確認できます。
一方、固定資産税評価額が「客観的な価額」である根拠について。
「土地の固定資産税評価額」は、市町村が地価公示価額や売買実例価額をもとに評価額を決定。他方、建物については、再調達価額をもとに評価されているため、土地建物ともに時価を反映しているものと考えられます。
また、土地建物の評価額の算定は、どちらも市町村が同一時期に行っており、算定機関も同一であることから、客観的な時価をあらわしているといえます。
(6)相続税評価額による按分(★★☆)
「相続税評価額による按分方法」も、固定資産税評価額と同様、簡単かつ迅速にその金額を知ることができるのがメリット。
では、なぜ優先度が星3つではないのか。
「固定資産税評価額」と「相続税評価額」のちがいを理解することにより、その理由を知ることができます。
既述のとおり、「固定資産税評価額」は、評価額の算定時期と算定機関が同一であることにより、その客観性を担保できていました。
一方、「相続税評価額」の算定方法はというと、土地については国税局が算出した路線価をベースに相続税評価額を計算。建物については、地方公共団体が算出した固定資産税評価額をベースに相続税評価額を計算します。
したがって、相続税評価額については、「算定時期」と「算定機関」が異なることになり、(5)の方法と比較すると、時価の客観性を完全には確保できていません。
とはいえ、相続税評価額は誰でも簡単に取得することができ、著しく客観性を欠く、というものでもありません。
相続税評価額による按分方法によって計算した取得価額を、税務当局が否認するに足る立証を行うのは難しいでしょう。
上記の方法とあわせて、一度は相続税評価額による按分計算を行ってみるべきと考えます。
複数の按分計算を加重平均する方法(★★★)
土地建物を一括購入し、その金額の内訳が契約書から判断できない場合、固定資産税評価額による按分方法がもっとも利用されているのが現状です。
「固定資産税評価額による按分方法」は、時価に客観性が確保されている点と簡単に入手できる点で、納税者に公平性が保たれており、非常に優れた方法です。
ですが、築年数の浅い建物などは、実勢価額よりも低く見積もられる可能性が高く、その結果、建物の比率が低くなりがちです。
不動産オーナーとしては、少しでも建物の比率を高くし、減価償却費を多くとりたいもの。
かといって、複数の方法のうち、1つの方法だけ突出して建物の価額が高くなるようなケースでは、その価額には客観性があるとは言い難く、税務当局にツッコミどころを与えてしまいます。
そのようなときに、上記で紹介した「複数の計算方法を加重平均する方法」がおススメです。
複数の方法により算出した評価額を合計し、その平均により算出した建物の取得価額であれば、その金額にはより一層の客観性があると考えられます。
土地建物の取得価額の算出方法について争われた判例紹介
区分所有建物が一括購入された場合の建物の取得価額の算出基準について争われた裁判例がありますのでご紹介します。
福岡地裁 平成13年12月14日判決(税訴 第251号 順号9036)
【内容】
- 「原告」は、区分所有建物を購入した。
- 物件購入時の契約書には、土地建物ごとの販売価額と消費税額の記載がなかった
- 「原告」は、土地の時価をまず確定させ、売買代金総額から土地の時価を差し引いて建物の取得価額を算定した。(いわゆる差引法)
- 「課税庁」は、「差引法」では土地の価額に、売買による適正な利益が反映されていないため、建物の価額が不相応に大きくなる可能性があると指摘。
- 「課税庁」は、「固定資産税評価額で按分する方法」により、土地建物の取得価額を算定すべきと主張。
- 「裁判所」は、土地建物の取得価額に恣意性が介入することをできる限り排除するべきとの考え。
- 売主の帳簿から、売却金額の内訳が判明するのであれば、当該金額で計上するのが、一番合理的な方法である。(今回の事例では不明)
- 「裁判所」は、原告が主張する「差引法」よりも、課税庁側の「固定資産税評価額による按分法」がもっとも合理的な方法であるとして、原告の主張を棄却した。
この判例による原告は、少しでも建物の取得価額を高くし、減価償却を多く計上したかったのでしょう。
「差引法」を採用し、土地の価額から確定させることによって、売買に係る売主の利益や仲介手数料などの諸経費をすべて建物に転嫁することが可能になります。
今回の判例からは、原告が土地の時価をどのような方法で算定したかは明らかになってはいません。
しかし、土地の時価が実勢価額よりも著しく低くなるような方法によって、土地の時価を算定し、建物の取得価額が高くなるよう意図的に操作したことが予想されます。
以上のように、原告が採用した「差引法」は、土地の時価算定の方法だけでも複数の方法が考えられ、取得価額の金額に恣意性が介入するおそれが高いので、適用場面は限られそうです。
結論として。
売主の帳簿に計上されている土地建物の売却金額の内訳は、通常、買主は知りえない情報であるため、実務上は適用困難な方法かと思います。
結果的に、「固定資産税評価額による按分法」により、土地建物の取得価額を合理的に按分する方法が、一番確実な方法になるでしょう。
そのうえで、前章で説明した「複数の算定方法を加重平均する方法」などを、常識の範囲内で適用できないかどうか試算・検証していくべきだと考えます。
まとめ
不動産を一括購入したときに、契約書に「土地建物の内訳」や「消費税」が記載されていないケースは、よくあります。
そういったときに、取得価額の内訳をどうするべきか。
判例などもまじえて、解説してきましたが、困ったときには「固定資産税評価額による按分」で問題ありません。
少しでも節税をしたい!減価償却を多めにとりたい!といったときには、本記事で紹介したいくつかの方法やそれらの方法を加重平均した方法などを検証してみてください。
そのようなときは、税理士などの専門家に必ずヒアリングするようにしてください。