こんにちは。大阪府の寝屋川市で不動産オーナーを支援している税理士の平川(@asse_t_ax)です。
今回は、前の記事の続きで、不動産管理会社の「不動産保有方式」について解説していきたいと思います。
前回の記事はこちら
不動産保有方式について
「不動産保有方式」は、オーナーが「所有していた建物」を「不動産管理会社に売却」します。
建物を法人に売却することにより、建物の「賃料や礼金等の収入」がすべて法人の収入になります。
「管理委託方式」や「一括賃貸方式」では、委託管理料や一括賃貸料を法人へ支払うことにより、個人から法人へ利益の移転をはかります。
一方、「不動産保有方式」では、「建物から発生する所得」を「すべて法人へ移転」することができるので、所得の分散効果と相続税の節税効果を最大限に見込むことができます。
借地権の問題
通常、不動産保有方式では、売却する不動産は建物に限定し、土地をオーナー所有のままとすることで、法人からオーナーへ地代を支払います。
このときの地代は、「固定資産税の2倍~3倍」の金額で大丈夫なのですが、「土地の無償返還に関する届出書」を忘れずに提出しておきましょう。
この届出書を提出することにより、借地権の認定課税を受けずに済むとともに、オーナーに相続が発生したときに、土地の相続税評価額から2割の評価減を受けることができます。
建物の売却金額について
オーナーから法人へ建物を売却するときに、「売却金額をいくらにするのか」という問題があります。
建物の売却金額は、「時価」でなければなりませんが、不動産の時価は「一物四価」といわれるように、客観的な時価の算定が難しいのです。
では、4つも時価があったらどうしたらよいかということですが、実務的には、上記の4つのどれでもなく、「簿価」を売却金額とすることがほとんどです。
「簿価」とは、建物の取得金額から売却時までの減価償却費を控除した、「未償却残高」のことを指します。
建物を簿価で売却することにより、個人は「譲渡所得が0」になりますので、譲渡所得税を負担することなく法人へ移すことができるのです。
不動産保有方式で、オーナーの土地と建物のうち、「建物だけ」を法人へ譲渡するのは、この譲渡所得税の負担を避けることが1番の理由になります。
【注意】
簿価が「時価の2分の1未満」であった場合、法人は時価で取得したものとみなされます。
時価と簿価の差額が「受増益」として、法人税が課されてしまうので注意が必要です。
実際に建物を売却するさいには、まず「固定資産税評価額」や「再建築価格」などを確認します。
確認後、簿価と時価との乖離が予想される場合などには、不動産鑑定士などの専門家に依頼することを検討しましょう。
不動産を取得するために要する費用
不動産を取得するとさまざまな費用がかかっています。
icon-hand-o-down 下記の記事を参考にどうぞ
消費税について
建物の売却は「消費税の課税売上」に該当しますので、オーナーが課税事業者である場合には、消費税の負担が増えることになります。
不動産の売却は、金額が大きくなりがちなので、それに伴う「消費税の負担」が大きく増える可能性があります。
大きなテナントが抜けるなど、「免税事業者になる時期」が分かっている場合には、法人への売却のタイミングをずらすなどの工夫をして、すこしでもコストの減額を図りましょう。
なお、「オーナーが免税事業者」である場合にも注意が必要です。
「建物の売却金額」と「その他の課税売上」の合計額が1000万円を超えるような場合には、2年後に消費税の納税義務者となりますので、「消費税の課税事業者の届出書」の提出を忘れないようにしてください。(本当に忘れることが多いところです!)
※簡易課税を受ける場合は、合わせて「簡易課税の届出書」の提出も忘れいないようにしましょう。
オーナーに銀行借入の残債がある場合
オーナーが銀行からの借入れにより不動産を取得していて、「残債が残っている場合」には、その不動産に抵当権が設定されているため、銀行との交渉が必要になります。
残債がある場合には、法人は簿価で買い取ることになるため、簿価と同額の融資を受けます。
一方、不動産オーナーは、売却金額で残債を返済することになります。
このような場合、「残債<簿価」であれば特に問題ないのですが、「残債>簿価」のケースでは、銀行との交渉がとても厳しくなってしまいます。
- 残債が1億円、建物の簿価5千万円の場合で見てみましょう。
オーナーは、簿価の5千万円で会社へ建物を譲渡することになり、その5千万円で残債1億円を返済すると、5千万円の借入金が残ったままになってしまいます。
5千万円をオーナーが自己資金で返済できれば問題ありませんが、そんな大金をたいていの人は用意できないので、法人での融資は難しいでしょう。
以上のとおり、「残債>簿価」の状態での不動産保有方式への移行は難しいので、いったん、「不動産管理方式」や「一括賃貸方式」などの形態で「不動産管理会社を設立」し、ある程度の資金をプールしてから「不動産保有方式」へ移行していく方法や「オーナー一族から法人へ出資してもらう」などの対策が必要になるでしょう。
まとめ
不動産所有方式は所得の分散効果が3方式のなかで最大であり、相続税の節税も見込めます。
法人への売却時には、建物の売却金額に注意し、残債がある場合には、「残債と簿価」のバランスを確認するようにしましょう。
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